東京高等裁判所 昭和29年(ネ)2130号 判決
証拠を綜合すれば次の事実を認定することができる。被控訴人が訴外斎藤善次郎を保険契約の募集及び保険料集金係として雇い入れるに際し、その詮衡の任に当つた被控訴会社上野支社長は、右斎藤が何らの推薦者もなく単独で就職申込をした者であるのに、同人の人物性行はもとよりその身元、前歴等について何等調査をすることもなくこれを採用するに至つたものであり、またその身元保証人となるべき者についても当時何らの調査もしなかつた。のみならずその採用後の監督についても同人の執務態度や不正行為の有無について何ら調査をすることなく放任し、右斎藤の集金についてはこれを問い合せた事跡はなく、たまたま保険契約者から解約の申入があつた際にその保険料の払込金額が帳簿の記載と相違することを発見し、これが端緒となつて本件費消横領の事実が発覚したものである。一方控訴人は右斎藤善次郎とは特に縁故関係のある者ではなく、同人の人物性行についても知るところはなかつたが知人の沢野益右衛門から懇望されてやむを得ず身元保証をなしたものである。以上認定の諸事実は身元保証に関する法律第五条の規定により身元保証人の責任の範囲につき斟酌せらるべき事由に該当するものと認むべきであるから、当裁判所は同条の規定に基き控訴人の責任の範囲を主文第二項(控訴人は被控訴人に対し金八万円及びこれに対する昭和二十九年七月十九日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え)のとおり定めるを相当と認め、右の限度はおいて被控訴人の請求を認容し、被控訴人のその余の請求は失当であるとして棄却した。